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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(あ)358号 決定

本店所在地

愛知県一宮市栄一丁目一一番八号

丸村株式会社

右代表者代表取締役

村橋富士雄

本籍

愛知県一宮市栄一丁目一一番地の九

住居

名古屋市千種区東明町四丁目五番地

会社役員

村橋実

昭和八年一月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和四八年一二月二〇日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人相沢登喜男、同大脇保彦、同太田耕治連名の上告趣意は、違憲(憲法三一条違反)をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 団藤重光)

○昭和四九年(あ)第三五八号

一、被告人 丸村株式会社

代表者代表取締役 村橋富士雄

同 村橋實

弁護人相沢登喜男、同大脇保彦、同太田耕治の上告趣意(昭和四九年四月一五日付)

第一、原審判決には憲法の違反(刑事訴訟法第四〇五条第一号)があり、且つ判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑事訴訟法第四一一条第一号)があつて、破棄を免れない。

一、第一審判決は、受入利息について法人税法違反を認定するに当つて、検察官の第一次主張(元本が被告会社に帰属するとの主張-元本法人税)を排斥し、検察官の第二次主張(元本には被告会社に起源するものと村橋邦太郎個人に起源するものとが混在するが、全体として被告会社が管理運営していたから、利息は被告会社に帰属すると主張-法人管理説)を肯認したものである。

二、そこで、被告人等は第一審判決に対して控訴するに当つて第二次主張を否認し又、第二次主張認定の根拠となつた数点の補助事実を否認することゝしたのである。即ち、控訴趣意書において、第二次主張を肯認した第一審判決には、事実誤認、経験則違反、理由そごの誤りがあると指摘したのである。

三、従つて、刑事訴訟法第三九二条第一項によつて、本件控訴審においては、まず第二次主張認定の是非を論ずべきであるのに、本件控訴審は右争点を回避し、直接、検察官の第一次主張を是認する旨の判断を下したのである(もつとも、その後において第二次主張をとらない旨の認定をしている)。凡そ控訴審は、原則として事後審の性格をもつものであり、まず控訴側の指摘する論点について攻防を尽すべきであるのに、ことこゝに出なかつた控訴審の訴詮手続には、明らかな法令違反があるものといわざるを得ない。

四、勿論、控訴審が第二次主張を否定した場合において、再び第一次主張に対して判断を示すことは理論的にあり得ないことではない。即ち、刑事訴訟法第四一三条但書の場合である。しかしながら、控訴審判決に当つては、破棄差戻しが原則であり、破棄自判は「被告人に審級を省略する結果になるような不利益を与えることがない」場合に、例外的に認められる(有斐閣法律実務講座刑事編第一〇巻上訴(1)二三五五頁及び関係論文については同二三五六頁参照)ことに思いをいたせば、本件控訴審判決によつて、事実上、第一次主張について被告人が審級の利益を奪われた結果になつた以上、本件控訴審判決には適法手続に関する憲法第三一条の違反あるものと断ぜざるを得ない。被告人は、第一審判決によつて第一次主張を打破し得、頭一歩をすゝめ、後は第二次主張認定の矛盾を追求することによつて、利息に関する法人税法違反を除去しうるものと期待していたところ、まさに一種の不意打ちに遭つた感をもつて、本件控訴審判決を受け取つたのである。被告人の不満感は、法律上正当なものとして保護されるべきであり、控訴審判決に存する不公正は必ずや訂正されることを信じてやまない。

第二、原審判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認(刑事訴訟法第四一一条第三号)があつて、破棄を免れない。

一、本件控訴審判決は、その結論として、本件簿外預金の元本はすべて被告人会社に帰属するものと事実認定したが、その根拠として以下に列挙する諸点をあげたのである。被告人は、右根拠にはすべて疑問があると信ずるものであり、且つ右根拠から検察官の第一次主張を是認した事実認定も、又根本的に事実誤認であることを確信するものである。

二、元本の発生起源について

本件控訴審判決は「(イ)本件簿外預金は村橋邦太郎の個人営業たる紅屋商店の廃業後である昭和三一年以降に急増しており、(ロ)邦太郎は個人としてはその後特に営業活動がなく、(ハ)傍系の丸邦毛織株式会社、丸村商事株式会社には不正経理の事実がなく、(ニ)被告人会社の不正行為と預金とが結びつく部分が、かなり多額に存在する」と認定するが、(イ)昭和三一年以後の預金の急増は、それ以前の預金の解約分や、紅屋商店在庫品の処分金を源泉とするもので、被告人会社の不正とは直接の結びつきはなく、(ロ)邦太郎は、営業活動はなくとも不動産処分による現金収入があつたのであり、(ハ)丸邦毛織株式会社について不正のあつたことは明白であり(北野証言問53第一回参照)、(ニ)については結びつきのあるものゝ存在は事実であるが、それがかなり多額であるとか、或は比率的に大であるとかの証拠がない(北野証言問4043いずれも第一回-混入割合は不明である。問311いずれも第一回-源泉の調査は重要ではない、問54以降69第三回-昭和三三年以降不正の金額ははつきりしているが、その間成立した定期預金の額は右不正の源泉をはるかに上廻る)のであつて、凡そ法人の不正額が確定されない状態のまゝで、預金の源泉のほとんどが法人起源であるとすることは余りにも不当である。

三、本件簿外預金の消費について

本件控訴審判決は、「(イ)本件簿外預金が解約されて被告人会社の銀行に対する借入金に充当されていること、(ロ)個人による消費は認められないこと」を摘示するが、(イ)については、右処理は、本件について有機的な法人税の追徴処分があり、その仮納付の為に一時そのような処理をしたものであつて、右事実を有罪の証拠とすることは余りにも残酷且つ不当であり、(ロ)はついては、法人による費消も又認められない以上、(ロ)の事実も証拠的に意味がないことに帰着する。

四、本件簿外預金の管理状況について

右について、本件控訴審判決は「(イ)預金は殆んどが借入先銀行に対する預金であり、(ロ)そのあるものは証書裏に印を押捺していつでも支払を受けうる状態になつており、(ハ)被告人会社に対する貸付金債権の為の裏担保となつており、(ニ)管理者である邦太郎及び実は法人の役員であつたこと」を認定するが、(イ)及び(ロ)については個人の預金であつてもあり得ることであるから、特に法人による管理を推認するものではなく、(ハ)については裏担保の事実はないし、もし裏担保が事実上の担保であるというのであれば、個人の預金でも裏担保になりうるから、前同様法人管理の決め手とはならず、(ニ)の事実及び保管場所が邦太郎の私宅である点をも併せ考えると、むしろ本件の預金は、邦太郎一家が個人分及び法人税分を個人として管理していた(特に個人預金であれば税率が源泉徴収のみでは低い点も個人管理の合理性を裏づける)ものと推定されるのであつて、法人管理を認定する根拠はない。

五、消費貸借乃至消費寄託の成立について

本件控訴判決は、個人起源の金員が被告人会社に無利息で貸与されていたものと強硬に理解しているが、そのような事実はないし、そう「解すべき」理由も根拠もない。邦太郎、実の捜査官に対する供述は、法律的な見解を強要された結果であつて、事実立証の決め手となりうるものではない。

六、以上述べたとおり、本件控訴審判決が事実認定のよりどころとした各事実は、その多くが証拠上明確でないものであり、又第一次主張を一義的に立証しうる性質のものである。従つて、これらの補助事実をいかに積み重ねようと、預金の元本が法人所得であることを確実に根拠づけることはできないのであつて、特に租税法定主義が要請する立証責任の厳格性(もしそれが厳格でなければ租税法定主義は絵に画いた餠にすぎない)を考慮した場合、本件においてこれに堪える十分な立証がなされたものとは到底考えられないのである。しかるに、この程度の立証から第一次主張を認定した本件控訴審判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認が存すること明らかであつて、原判決は当然に破棄されるべきである

以上

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